「ヤングケアラー」という言葉を知って

政治家は「言葉」を扱う仕事です。言葉を駆使して、政策を広く国民の皆さまに訴えます。

私が気を付けているのは「なるべく横文字を使わない」こと。いわゆる“カタカナ語”といわれるものです。

たとえば「リスク(危険)」とか、「ダイバーシティ(多様性)」とか、「コンプライアンス(法令遵守)」とか……。誰もが意味を知っているわけではないし、特に高齢者の方々から「横文字が多いと、話が頭に入ってこない」とご指摘を受けることが少なくありません。日本語に言い換えられるものなら、極力、そうするように努めてきました。

その考えと矛盾するようですが、私が今、あらゆる機会に「意識して」発している横文字があります。

「ヤングケアラー」です。

法令上の定義はありませんが、「本来、大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的におこなっている子どもや若者」を指します。その範囲があまりにも広いため、なかなか「ひとことの日本語」で言い表すことが難しいのが、実情です。

最近の調査では、小学6年生の約15人に1人に当たる約6.5%、中学2年生で5.7%、高校2年生(全日制)で4.1%が「世話をしている家族がいる」と答えています。

※厚生労働省のホームページより<https://www.mhlw.go.jp/young-carer/>

公明党としての取り組み

昨年1月、ヤングケアラー問題に詳しい大学の先生をお招きし、兵庫県で公明党の勉強会を開いた時は、まだまだ、その言葉が社会に浸透しているとは言い切れませんでした。

その先生をはじめ、ヤングケアラーの問題に取り組んでいる方々が共通して訴えておられることは、「ヤングケアラーは実際に近くに存在している――にもかかわらず、多くの大人にとって“目に映っていながら、見えていない”“知っていながら、気づいていない”」という点です。

私は昨年3月、参議院予算委員会でこの問題を取り上げ、国による支援強化を主張しました。菅義偉首相(当時)は「省庁横断のチームで、当事者に寄り添った支援にしっかりと取り組む」と答弁。日本の首相がヤングケアラー支援に言及したのは、初めてのことでした。

その後、厚生労働副大臣を務めていた公明党の山本博司参院議員の主導で厚労・文科両省合同のプロジェクトチームが発足。さらに、2021年度補正予算や22年度予算に関連費用が計上されました。本年4月には、自民・公明両党と国民民主党の3党で、ヤングケアラー支援策の検討チームを設置。6月初旬をめどに対策をまとめられるよう、議論を進めているところです。

<ヤングケアラー支援推進検討会に出席(4月27日、国会内)=公明新聞>

一人の子どもを育てるには

テレビや新聞、インターネットのニュースで頻繁に取り上げられるようになったからでしょうか。街頭演説会などの場で「ヤングケアラー」の話題に触れると、耳を傾けてくださる方々の“反応”にも変化を感じるようになりました。

以前は「ヤングケアラーって何?」という空気になることも少なくなかったのですが、ここ最近は、関心を持っている方々が急速に増えていることを実感します。

私を支援してくださる方々の中には、地域や教育、福祉の現場で子どもたちのために献身されている人も、多くおられます。

「私もこの問題をたくさんの人に知ってもらいます!」「今いる場所で、自分にできることから始めていきますね!」といった、ありがたいお声をいただくことも、少なくありません。「伊藤たかえさんのお話を聞いて、『子どもの頃の私は、実はヤングケアラーだったんだ』と気付いたんです」と、打ち明けてくださったご婦人もいました。

子どもが家族のためを思ってケアすることそれ自体は、とても尊いことであり、否定されるものではありません。一人ではとても抱えきれない負担を背負いながら、誰にも理解されず、見過ごされている現状こそが問題なのです。

アフリカのことわざに「一人の子どもを育てるには、一つの村が必要だ」とあると聞きました。一人の子どもが伸び伸びと、安心して育つには、家族の力だけでは足りません。地域、教育、福祉、行政、それぞれの現場に携わる人たちも「子どもたちのために」という一点で、支え合っていくことが不可欠です。

国の22年度予算で、福祉や医療、介護など適切な支援機関へのつなぎ役となる「ヤングケアラー・コーディネーター」を置く自治体への財政支援を行うこととしたことも、「支え合う仕組みづくり」の一環にほかなりません。

「ヤングケアラー」という言葉はこれから、“社会問題を指す言葉”としてだけではなく、「子どもたちの笑顔」を願う人と人とを“つなげる言葉”としての意味合いも、持ち始めていくのではないでしょうか。

子どもたちも親御さんも、誰一人置き去りにしない社会を築くために――やらなければならないことが、まだまだあります。